僕は僕が欲しいものなんて知らない 聖北学院大学演劇研究会 続編

僕は僕が欲しいものなんて知らない 聖北学院大学演劇研究会 続編

last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-08-25
โดย:  いふや坂えみしยังไม่จบ
ภาษา: Japanese
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友人に誘われて入部した演劇研究会で、渡辺浩二は演劇にのめり込む。 演劇を通して成長していく姿を丹念に描いていく青春小説。 「僕は僕が欲しいものなんて知らない 聖北学院大学演劇研究会 入学編」 の続編になります。

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บทที่ 1

第一話

「佐藤峻宁、この離婚届、あなたがサインしなくても構わないけど、サインしてもらうわよ」

山田佑依が一枚の書類を手に、強気な態度で迫ってきた。

彼女は私の結婚して7年になる妻で、大学の同級生だ。4年間の恋愛を経て、卒業後は一緒に起業した。

私は彼女のために全力を尽くして、必死に働き、この会社を県内トップ500にまで押し上げたんだ。

それなのに、私が仕事も家庭も順調だと思っていた矢先、まさか妻から離婚を切り出されるなんて。

彼女が私に出した理由は、別の男を好きになったからだってさ。

その男は彼女の隣に立っていた。風格があり、堂々とした姿勢で、まさに南洋一の名家、岡田家の長男、岡田凌文と呼ばれる人物だった。

岡田凌文は幅広のメガネをかけ、体にぴったりと合ったスーツを身にまとい、口元にわずかな笑みを浮かべながら、私を見下すような視線を投げかけてきた。その姿はまさに、名門家の長男らしい傲慢さと風格に満ちていた。

だが、私は知っている。この男はただの職業詐欺師だ。南洋の岡田家に「岡田凌文」なんて人物はいないことを、私は人を使って徹底的に調べ上げた。だが、佑依にこの真実を伝えても、彼女はまったく信じようとせず、「それは嫉妬心からの中傷だ」と言い放った。

彼女は離婚届にサインするように私に迫ったが、私は頑としてサインしなかった。

私は彼女のために、美しい後輩との関係を断ち切った。

彼女のために、顧客と無理に酒を飲み、ついには病院に運ばれるほどだった。

彼女のために、実家の家を売り払い、会社が最も苦しい時期に資金を注ぎ込んだ。

それでも、佑依は私のそんな努力には一切関心を示さず、どうしても離婚すると言い張るのだ。

今日は彼女が全社員の前で私に離婚届にサインさせようとしている。

私を恥ずかしめ、逃げ場をなくそうとしているのだ。

前世では、私は激しい怒りに駆られ、離婚届を粉々に引き裂き、

その場で凌文という詐欺師を暴いた。

彼はもう嘘を続けられず、しおしおと逃げて行った。

私は佑依が心変わりして、また私の元に戻ってくるだろうと信じていた。

しかし、私が迎えた結末は、凄惨な殺人だった。

佑依とその詐欺師は私を地下室で殺したのだ。

彼らは何度も何度もナイフを私の体に突き刺し、

私の血が地下室の隅々にまで広がった。

「峻宁、あなたが私たちにそうさせたの。あなたが死ななければ、私たちは一緒になれないのよ」

佑依の冷たい声が、私の心に深く突き刺さった。

「お前は彼が詐欺師だと分かっているんだろう。なぜ、それでも彼と一緒にいるんだ?」

「嘘よ!凌文は詐欺師なんかじゃない。彼は南洋の岡田家の長男よ。あなたは彼に嫉妬しているだけ!」

私は笑った。佑依はまだ、この詐欺師を信じている。

ただ、彼が見た目が良くて、風流だからか?

それとも、彼の甘い言葉に騙されているのか?

いや、もしかしたら、私があまりにも実直で、女性を喜ばせるのが下手だからかもしれない。

「いいだろう、この離婚届にサインするよ」

この人生では、彼女の望む通りにしてやる。

私は静かに、離婚届を受け取った。

その瞬間、オフィス内の全員が驚きの目で私を見つめていた。

佑依でさえ、驚いた表情で私をじっと見つめていた。

私が会社のためにこれほど尽くしたにもかかわらず、こんな結末になるなんて。

本来なら、私は怒りを感じるべきだった。

だが、感じたのはただ、心が冷え切ったということだけだ。

起業当初の資金はすべて佑依の家が出していたため、私には株を持っていなかった。当時、私たちはまだ結婚していなかったからだ。

だから、離婚したら私は何も手に入れることができない。

私は会社を去り、背後には佑依とその詐欺師が得意げに笑っているのが見えた。

それでも私はあまり失望しなかった。あの詐欺師は欲深く、いつかきっと問題を起こすだろう。

一方で、私はもう家族に縛られることはなくなり、自分のために新たな事業を始めることができる。

前世の旧区改造計画を思い出し、私はすべての貯金を出して一軒の老朽化した家を買った。

1ヶ月もしないうちに取り壊しの告知が出て、私はサインをし、500万以上の利益を手に入れた。

その資金を使い、私は実業に乗り出した。全国的なインフラ整備を見越して、私は石材工場に投資した。

この業界には以前少し触れたことがある。技術的には難しくないが、問題は販売ルートだ。

だが、大規模なインフラ整備が始まる以上、私は全く心配していない。

一方、あの詐欺師の凌文が私のポジションを引き継ぎ、会社の社長補佐に昇格した。

しかし彼が最初にやったことは、古株の社員たちをターゲットにすることだった。

多くの古株社員が彼によって解雇され、彼らは私に連絡を取ってきて、苦情を訴えた。

「佐藤助理、やっぱりあんたはいい人だよ。あの凌文なんて全然ダメだ。私たちを辞めさせておいて、退職金すらくれなかったんだ」

それから、いくつかの建設会社が私に苦情を言ってきた。あの詐欺師は彼らにリベートを要求し、それを拒否すると支払いを引き延ばし、代金を踏み倒していたのだ。

さらに、仕入れ業者も文句を言ってきた。詐欺師は自分が権力を握るやいなや、すべての取引先を入れ替えたのだ。

私はこの詐欺師が会社全体を支配しようとしていることをすぐに見抜いた。

笑えるのは、佑依がまだ彼を信じ切っていることだ。「彼はやる気があって、思い切った改革を進めてくれている。おかげで会社がもっと効率的になった。峻宁よりもよっぽどいいわ」なんて言って、役員会で彼を褒め称え、給料まで上げていた。

私はそれを聞いて、ただ笑うしかできなかった。いずれ彼女が泣く日が来るだろう。この詐欺師はプロで、すでに何人もの金持ちの女性を騙してきたのだから。彼が頼りにしているのは、あの美しい顔立ちと嘘をつく巧みな舌だけだ。

そんなある日のこと、偶然にも私は彼ら二人とオフィスビルで出くわした。

佑依はプロフェッショナルなスーツに身を包み、大きなウェーブのかかった髪を揺らし、高いヒールを履いて、まさに女社長という感じだった。

その隣にはあの詐欺師がいて、二人は私を見るや否や、嘲笑を浮かべた。

「峻宁、まさかここで会うとはね。仕事探しに来たのかい?」

私の手には、ちょうどサインしたばかりの契約書があったが、佑依は私が履歴書を持って面接に来たと思っていたようだ。

「いや、仕事探しじゃない。今は私も起業しているんだ」

私は事実を伝えただけだったが、それが佑依の笑いを引き起こした。

「あなたが起業?私、目を疑ったわ!」

私は怒りを抑えながら顔を背けたが、佑依はさらに言葉を続けた。

「もう見栄を張るのはやめて、うちに戻って働けば?」

私がまだ答えないうちに、横にいた詐欺師が口を挟んできた。

「佑依、ちょうどいいところに清掃員が足りていないんだ。彼にオフィスの掃除をさせて、ついでにトイレも洗わせればいいじゃないか」

私の顔は一瞬で険しくなり、振り返ることなくその場を去ろうとした。

その背後で、佑依は思いっきり笑い声を上げていた。

「そんなに急いでどこへ行くんだ、峻宁?本当に仕事が見つからないなら、いつでも戻ってきていいんだぞ」

「ちゃんと頭を下げて頼めば、私も手を貸してあげるかもしれないよ」

この二人の言葉に耐えきれず、私は足を止め、振り返って佑依をじっと見つめた。

「お前はあの会社の古株を何人も解雇したよな。随分と冷酷じゃない。報いが来るのが怖くないのか?」

そう言い残し、私は再びその場を後にした。

背後で、佑依の顔は鉄のように固くなっていた。

彼女は本当に無情だ。解雇された古株の社員たちは、ほとんどが会社創立時から働いていた人たちで、会社のために多大な貢献をしてきた。

それなのに、退職金すら支払わずに彼らを解雇するなんて、さすがに酷すぎる。

案の定、1週間も経たないうちに、ある部署が佑依に対して訴えを起こした。社員に退職金を払わなかったため、500万元の罰金が科されたのだ。

罰金自体は大した問題ではなかったが、この件が市のテレビ局で報じられ、会社のイメージは大きく損なわれた。

佑依は窮地に立たされ、夜通し謝罪文を発表することになった。

そして、かなりの額をかけて、PR会社に依頼し、事態の収束を図ったのだ。

しかし、佑依は詐欺師を責めるどころか、取締役会でこう言ったのだ。

「凌文は会社のためにコスト削減をしてくれたんだから、間違ってないわ」

その一方で、私は自分の事業を続けていた。すると、すぐに県から大規模なインフラ整備計画が発表された。

それに伴い、私の石材工場は急速に成長し、製品が供給不足になるほどの好景気となった。

私はさらなる規模拡大を考え、銀行に融資を受けに行った。

そこで思いがけない再会があった。清水云璃だ。彼女は、かつて私が佑依のために断った後輩の女性だった。

この再会は驚きだった。なんと云璃の家は銀行を経営していたのだ。

彼女は私を温かく迎え入れ、なんと十億円もの融資を快く提供してくれた。

十億円だ。私のような小さな石材工場には、まさに生命の泉を注いでくれたようなものだった。

その資金のおかげで、私の工場は大規模に拡張され、生産能力は数十倍にまで向上したが、それでもなお需要が供給を上回っていた。

私が絶好調の時、佑依の会社が再び問題を起こした。

今回の原因は、あの詐欺師が材料業者からリベートを取っていたことにあり、そのせいで納入された製品が不良品だった。

多くの顧客が会社に対して苦情を寄せ、佑依はまたもや窮地に立たされた。

彼女は前回、補償金の問題で世間から非難されたばかりだったが、今回は顧客からのクレームが追い打ちをかけ、非常に苦しい立場に立たされたのだ。

結局、彼女は再び巨額の費用をかけて世論を鎮め、顧客への損害賠償を高額で支払うことで、この問題をなんとか収束させた。

しかし、この一件で、社内では詐欺師に対する反感が爆発した。多くの社員が彼を解雇するよう要求した。

「佐藤助理がいた頃にはこんなことは一度もなかったのに、なんで岡田家の大少爷が来てからはこんなトラブルばかりなんだ?こんな奴をどうして会社に残しておけるんだ?」

「そうだ、あいつを追い出せ!そして佐藤助理に戻ってきてもらおう!」

その後、私にはたくさんの電話がかかってきた。特に佑依の会社の小株主たちからは、何とか戻ってきてほしいという懇願が相次いだ。

だが、私は当然戻るつもりなどなく、丁重に断った。
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第二話
 本番当日、僕は授業中も落ち着かないほどの高揚感に包まれていた。昼休みの部室では、同期の松本(ガジン)が実は二浪の成人だと知り驚愕する。平穏な日常を望んでいたはずの僕だったが、何が起こるかわからない日常の交流が心地よく感じられるほど、部は僕にとって大切な居場所になっていた。本番直前、僕は気恥ずかしさを抱えつつも、同じ一年生の橋本さんを「裕子ちゃん」と名前で呼ぶ。そんな甘酸っぱいやり取りや、舞台裏での佐々木先輩の手伝いを通じ、僕は本番前の高揚感に浮かされて授業をサボり、自分の時間を舞台に捧げることを決める。 迎えた開演。僕はサイドスポット操作という重責を担い、暗闇の中でスタンバイする。上演された演目「the end of the world」は、学生時代に演劇を共にした三人の男女が、卒業後に直面する現実と悲劇を描いたものだ。家業の倒産と借金に苦しみ自殺を選んだ芝浦(ブラザーさん)と、彼を演劇の世界へ呼び戻したことに罪悪感を抱く小山(金八さん)、自殺の兆候に気づくことができなかった笹田(久美子さん)そして、亡き兄の遺志を継ごうとするカズマ(骨折さん)の熱演が、観客の心を激しく揺さぶる。僕は劇の山場、骨折さんが叫ぶ「お前さえいなければよかったんだ!」というセリフに合わせ、無事に寸分違わぬタイミングでサイドスポットを操作することができた。 全五公演は大盛況に終わり、最終日には立ち見が出るほどの熱気に包まれた。鳴り止まない拍手の中で行われたカーテンコール。その光景を照明席から見守っていた僕は、物語が現実を変える瞬間に立ち会い、かつてない達成感を覚える。撤収作業である「バラシ」を経て、非日常から日常へと戻っていくホールを眺めながら、寂しさと共に次への強い期待を抱いていた。 打ち上げの席で、僕は苦いビールを口にし、大人への階段を一段登る。週が明け、寝不足のまま訪れた部室で、部長から十一月の新人公演が一年生主体で行われることを聞かされる。脚本を書きたいと意気込むガジンから「役者をやってみないか」と誘われたとき、あんなに人前に出ることを避けていたはずなのに「やってみてもいいかな」という言葉が自然と漏れた。ガジンの「どっぷり演劇の沼にはまっている」という言葉を、僕は否定しなかった。演劇に出会い、自分の殻を破って新しい世界へ一歩踏み出す勇気を得たような気がしていた。 公演後、演
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第三話
 七月、初の期末試験が近づく。未知の専門科目に戸惑う僕に、先輩の久美子さんたちから「過去問のネットワーク」という大学特有の攻略法を伝授された。部室では就活スーツのポリスさんが人気漫画のセリフで「さらば」と去り、留年危機のブラザーさんや、夢を追うシュンさんの将来が語られるなど、四年の先輩たちの学生生活の終わりと現実が交錯していた。 試験本番、僕は過去問を頼りに論述問題に挑むが、唯一、数学だけは絶望的だった。最初から理解を諦め、授業中の「寝ていないふり」を極めていた僕は、白紙に近い答案を前に来年は先輩に話を聞いて選択する授業をきちんと考えて決めようと誓った。手応えのないまま「優・良・可・不可」の評価に委ねる試験期間を終え、長い夏休みへと足を踏み出した。 大学生活最初の夏休み。宿題のない完全な自由を前に、僕は携帯電話を手に入れる資金を作るため、アルバイト探しを開始した。当初は気楽に考えていたが、初めて書く履歴書の「志望動機」や「長所」といった項目に、自分を見つめ直す難しさを痛感する。最初に挑んだ古本屋の面接では、本好きをアピールするも不採用。続く回転寿司店では、店長がバックヤードで女性と不適切なほど密着しているという衝撃的な光景を目の当たりにする。その無節操な姿に呆れた僕は、投げやりな態度で面接に臨み、当然の結果として不採用となった。世の中の不透明な人間関係に辟易しつつも、彼は生活圏内にある「コンビニ24」への応募を決める。 五度目の面接で採用を勝ち取った僕は、期待と緊張を胸に初出勤を迎えた。渡された赤い制服に「研修中」のバッジをつけ、先輩店員の篠原からレジ打ちや接客、品出しの基礎を学ぶ。特に印象的だったのは、単なる作業ではない「商品の見せ方」だった。品数が減った弁当棚を上段にまとめることで、売れ残り感を消し、充実感を演出する「フェイスアップ」の技法は、効率を重んじてきた僕にとって新鮮な驚きだった。また、立ち読み客を掃除でさりげなく移動させる手法を教わった際には、いまでも「立ち読みをする側」の自分を思い出し、苦笑する場面もあった。 研修期間中、慣れないレジ操作や検品作業に追われながらも、僕は着実に仕事を覚えていく。一時間の労働が「パン十個分」の価値に換算されるという労働の重みを実感し、無駄遣いを自制する自律心も芽生え始めていた。一ヶ月が過ぎ、ついに手にした初給料
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第四話
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第五話
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第六話
「あ、けっこう人いた」 入ってきたのは木村恵先輩と石川純子先輩だった。どちらも二年生で、木村先輩はキムさん、石川先輩は純子さんと呼ばれている。二人とも前の公演では制作を担当していた。人が増えてきたのでなんとなく部屋の気温が上がったように感じる。エアコンはついていないので気のせいかもしれない。「キムさん、純子さん、お久しぶりです〜!」「やっほ〜、裕子ちゃん」 裕子ちゃんの挨拶にキムさんが答える。僕とゴウさんも二人に挨拶した。「二人も成績見に来たの?」「そうだけど、その話題ちょっと広げないで」「あ、そういう感じ?」 ゴウさんの質問にキムさんは嫌な顔をする。成績はあまりよくなかったみたいだ。「よし、じゃあカラオケでも行くか」「あ、いいね〜。今日の記憶消したいから行く」 純子さんの提案にキムさんが賛成する。「わたしもわたしも!行きたいです」「あ、みんな行く感じ?じゃあしょうがない、俺も行くかな」 裕子ちゃんとゴウさんも行く流れになった。「ナベも行こうよ!」「え、あ、うん。行く」 裕子ちゃんに誘われ、カラオケは得意ではなかったが同意してしまった。じわりと冷や汗が出る。このまえの公演の打ち上げで初めて行ったが、歌はあまりうまくない。高い声が出ないからだ。 部室の鍵を閉めて管理人室に鍵を返却すると、全員で最寄りの地下鉄駅近くにあるカラオケ店へ向かった。カラオケ屋に近づくたびに緊張してきた。「ナベくん、なんか表情が硬いね」「いやー、歌うこと自体は好きなんですけど、人に聞かれると緊張するんですよ」 キムさんに問われて答えたことは嘘ではない。歌うことはまあ、嫌いではなかった。「周りのことなんか気にしないで歌えばいいんだよ」「そうですね、うまくなるように練習のつもりで歌います」 歌が上手ければ気にならないんだろうなと思いつつ前向きな言葉に変換して話す。カラオケ屋に入り、先輩が受付している姿を後ろから眺める。とりあえず二時間の利用になった。 エレベーターで五階に上り、まっすぐ廊下を進んで真ん中あたりのボックスに入る。八人くらい入れる部屋だった。
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第七話
「誰から曲入れます?」 ボックス内にはモニターの下にタッチパネルが二つ用意されていた。裕子ちゃんがパネルを二つ持って全員に聞いた。「じゃあ、言い出しっぺの私から入れるね」 純子さんがパネルを受け取った。「みんな飲み物何にする?俺はジンジャーエール」「私もそれ」 純子さんがパネルから目を離さずに答える。「私コーラ」「私もコーラにします」 キムさんに続いて裕子ちゃんが答えると、純子さんが顔をあげる。「あ、ごめん。私やっぱりコーラにする」「俺はウーロン茶でお願いします」 僕はウーロン茶が好きというわけではないが、炭酸も甘いものもそれほど好きというわけではなかったので消去法でウーロン茶にした。「あー、すいません。注文お願いします。……はいはい。……えーと、ジンジャーエール一つとコーラ三つとウーロン茶一つお願いします」 ゴウさんがドアの近くについている受話器を取って注文する。みんな自然とこんなふうに周りに気遣う作法はどこで学ぶのだろう?人付き合いをしてこなかった僕はきっと学ぶ機会を逃していたのだ。純子さん選んだ曲がモニターに写り、歌い始める。普通にうまい。キムさんはパネルで選曲していて、他の人は場を盛り上げていた。僕も知っている曲だったので、小声で口ずさみながら体でリズムを取る。 サビを過ぎたあたりで店員がドリンクを持ってきた。ドアの一番近くに座っていたゴウさんがドリンクを受け取り、みんな礼を言いながらドリンクを受け取っていく。純子さんは少し店員を気にしながら歌い続けている。店員が立ち去り、純子さんが歌い終わった。 すぐに次の曲がかかる。キムさんが純子さんからマイクを受け取り、歌い始める。有名なガールズバンドの曲だったが、歌い方も声もそっくりだ。 三番目はゴウさんだ。激しいエレキギターの前奏が流れる。僕の知らない曲だったが、ジャンルはヘビメタということだけはわかった。おっとりしたゴウさんのイメージとは真逆だ。ほとんどゴウさんは叫ぶように歌っていたので、歌がうまかったかどうかはよくわからなかった。「ゴウさんイメージぜんぜん違いますね」 裕子ちゃんも驚いている。「でしょー。でもヘビメタしか歌わないんだよねぇ」 純子さんの言葉も意外だ。ゴウさんはヘビメタが本当に好きだったらしい。僕のところにパネルが回ってきてしまった。仕方ない。あきらめて
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第八話
 裕子ちゃんがマイクを持つ。ここに来る前に部室でリピートして聴いていた曲が流れ始めた。独特なアニメ声、大きな声量で音程にズレはない。とても楽しそうに歌っている。さっき聴いただけで歌えるようになったのだろうか。歌うのがあまり得意ではない僕からするとうらやましい限りだ。 裕子ちゃんの次は僕の番だ。のどの調子を少しでも整えるためにウーロン茶を手に取る。少し暑い室内とは対照的な冷たさが指に伝わる。グラスには水滴が浮いており、滴った水でできたグラスの跡がテーブルに残っている。ウーロン茶を口に含むと酸っぱいような独特な風味が鼻を抜ける。飲み込むとのどに引っかかるような違和感を覚えた。ウーロン茶は歌う前には適さないのかもしれない。 裕子ちゃんが歌い終わり、僕の耳には聞き慣れた前奏が流れ始める。マイクを受け取り、少し緊張しながら歌い始めた。低い音程ならそれほどずれずに歌えている。絶えず歌が曲を追い越しそうになる。それを必死に抑えてズレを調整し続ける。サビに入った。声帯が限界まで伸びている気がする。高音になるほど声量は落ちていく。なんとか最高音を出すことができたが、声量のブレは明らかだ。それでもなんとか歌い終えることができた。人に聞かせるようなレベルではない。 途中でからあげやポテトも届いたので、食べながら過ごす。いつも感じることだが、外で食べる食事は味が濃い。僕の家の食事は母が健康を気遣っているので薄味のものが多いので、なおさらそんなふうに感じるのだろう。 歌っているのは女子三人がほとんどだった。結局僕はもう一曲歌ってあとは他の人の歌を聴いていただけだ。あっという間に二時間は過ぎ、延長はしなかった。「やーん、久しぶりに歌ってすっきりしましたぁ」 裕子ちゃんはとても楽しそうに笑っている。「楽しかったねー」 キムさんも満足げに同意している。「ゴウくんは相変わらずだよ」「俺はBK意外歌う気ないよ」 純子さんの言う通り、ゴウさんはBKというヘビメタバンドの曲しか歌っていなかった。「ヘビメタってよくわかんないわ私」「歌ってると脳がしびれるんだよ」「あ、うん。なんか向こう側にイッちゃってる感じする。怖くて真似できない。戻ってこれなくなりそう」「大丈夫だよ」「ふだん穏やかなのが余計怖いよ」「そうそう、わかる〜。笑顔の裏になんかありそうっていうか」 純子さんの
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第九話
 実際に台本は書いていた。未来の宇宙船が舞台で、登場人物は一つの家族だ。宇宙船が壊れて地球に帰れなくなった状況で不時着した星でどう生きていくかみたいな感じで話を展開させていっている。話が面白いかどうか、自分で書いているとよくわからない。というか、たぶんおもしろくないんだろうな、という予感がある。実際に書いているのだから予感と表現するのは違うかもしれない。 いままで読んでいておもしろいと感じた小説と比べると、自分が書いた作品はそれとは違うという感覚がある。でもその原因が何かというとまるでわからない。二週間後に台本決めのための会議があるが、それまでに完成しそうもない。完成させる必要はなくて、十一月予定の本番のだいたい一ヶ月くらい前までに完成すればいいらしい。夏休み前の公演でシュンさんが書いていた台本も本番直前に完成していたという例もある。だから完成にこだわる必要はなさそうだが、どんな話になるのか説明はきちんとする必要があるだろう。 アルバイトの合間に執筆を続けていたが、会議までに書けたのは全体の半分を少し過ぎたくらいまでだ。会議の日になり、僕が部室に入ると中には一年の理恵ちゃん(池田理恵)と瞳ちゃん(岡田瞳)、みずとも(清水智子)が来ていた。ガジンと裕子ちゃんはまだ来てないみたいだ。会議は十時から始まる予定だが、あと十分くらいある。テーブルにはペットボトルがいくつかと、中央にお菓子が置いてある。僕もなにかお菓子を持ってくるべきだったな、と反省した。「おはよう」「あ、ナベおはよう」「おはよう」 僕が挨拶するとみんなから挨拶が返ってくる。そう信じることができる環境は貴重だと思う。「みんな、台本書いた?」「私は既成の台本持ってきたよ」 僕の問いに理恵ちゃんが答える。理恵ちゃんは全体的に小さいのでぱっと見た印象では中学生に見えなくもない。「そうなんだ。どこの劇団のやつ?聞いてもわかんないかもしんないけど」 僕は演劇にそれほど詳しいわけではない。部内での会話で身についた知識がほとんどだ。「マカベドロップスのやつ」 マカベドロップスは有名な東京の劇団だ。看板俳優はテレビドラマにもよく起用されている。「ほら、自主練で使ってる台本と同じ劇団の台本だよ」 横からひょろりと背の高い瞳ちゃんが補足する。理恵ちゃんと二人で台本を選んだのだろうか。「ああうん、そ
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